❖第五章プロローグ
「いらっしゃいましたか、星導師殿」
「報告はうかがっております。……随分と顔色が良くないですね」
「それは……面目ありません。
私とてこの身数十年、この国を背負ってまいりましたが、まさか……」
「魔王、ですね」
「えぇ。闇の魔王ヴェルディエル……
私はお目にかかったことはありませんが……」
「……魔王の封印についての話は、どこまでを?」
「"本当は魔王は討たれたのではなく勇者によって封じられた"と、先代より聞き及んでおります。
そして、その術式が”"伝承"によるもの”だということも」
「――……えぇ。"魔王が滅びていない"という事実は、本来は決して知られてはならないことでした。
"魔王は滅びた"という伝承こそが、魔王を封じる鍵だったのですから」
「架空の伝承を流すことで星すらも欺く大規模術式……
それがまさか、破られるというのですか?」
「はい。魔王の腹心――闇黒将ゼルレアは術式の本質を理解しているはずです。
"魔王は滅びていない"という事実が世間一般に知れ渡れば、"伝承の封印"は次第にその力を失います。
じきに、魔王ヴェルディエルは封印を破ってこの星界へ現れることでしょう」
「切っ掛けは悪魔達の言葉だとなると……ガラムへ冒険者達を送ったのは失敗だったと?」
「いえ、ゼルレアを放っておけば、どのみちオダヤへ軍を進めていたことでしょう。
正直、あの術式がこの時代まで保ったこと自体が幸運とも言えます。
魔王の配下を完全に滅ぼすことができなかった以上、時間稼ぎでしかないことは分かっていました」
「では、何か策が?」
「まだ確実性はありません。ですが、もう一つの"伝承"は今でも力を発揮し続けています。
それが実れば、あるいは、本当に魔王を討つことができるかもしれません」
「……なるほど、それが切り札ということですか」
「ええ、準備は進めています。それには協力者が必要ですが」
「協力者?」
「ええ。二人ほど……私の、古い知人です」
「二人……まさか」
「はい。……ですので、冒険者の皆さんへの手引きをお願いいたします。
彼らと会うことができるように」
「……分かりました。すぐに手を打ちましょう」
「冒険者の皆さんが彼らに会うことが、"切り札"の最後の鍵となります。
二人もそのことについては承知の上でしょうが……」
「何か懸念が?」
「どちらも一筋縄でいかない方々ですので……紆余曲折はあるかと思います。
……下手に出れば増長する方々ですし……
その間にこの星界に現れるであろう魔王を食い止める手段も必要ですし」
「……悩みが尽きませんな。改めて、星導師殿の協力に感謝いたします。
本来は我が国だけで解決するべき問題だということは重々承知しておりますが……」
「ふふ、そこは気になさらないでください。ウェルドの民も私達もシン大陸に生きる命。
滅びを回避するために共に手を取ることは、ごく当たり前のことです。
――それに、私にはどうしても助けたい相手がいますので――」
「……?相手?」
「いえ、失礼。個人的なお話でした。
それよりも今は、二人の協力を実際にどう取り付けるかです」
「方や"国王"、方や"賢者"となると……
簡単にどうこうできる相手ではありませんな」
「……やはり真っ向から納得させるしかないでしょうね。
輝く星……それも、なるべく強い星が」
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